観光客の9割が日帰りで、街に負荷がかかるのに観光収入はごくわずか――。そんな鎌倉の現状を変えるヒントが、意外にも「サウナ」にあるかもしれない?9月12日、鎌倉のシェアリビングスペースNIHOkamakuraで開催された「鎌倉流リジェネラティブ観光作戦会議」では、「サウナで地域の情熱を上げていく」をテーマに、世界で注目される「リジェネラティブ・ツーリズム(再生型観光)」とサウナを組み合わせた斬新なアイディアが議論されました!!コロナ禍で見つけた「本物の整い」メンバーの佐古田さんは、化学系メーカーで営業マーケティング職に従事する傍ら、生粋のサウナ愛好家でもあります。なんと現在までに125施設のサウナを体験しているとのこと!それほどの情熱を注ぐきっかけは、意外にもコロナ禍にありました。「2020年のコロナ禍で会社がリモートワークに移行し、生活リズムが大きく崩れました。『いつまでこの閉塞した時代が続くのか』というストレスを日々抱え、自律神経の乱れに悩んでいた時期に、知人からマニアックなサウナを紹介されたんです」紹介されたのは長崎県諫早市にある「御湯神指しベストパワーランド」という温浴施設。『千と千尋の神隠し』のような世界観を持つこの施設では、大きな竈の中にムシロを被って横になるという非常にワイルドな方法でサウナを体験します。常に松の薪を燃やしているため火の粉が飛び散り、ムシロなしでは危険な状況です。「普通のサウナの『整い』とは全然レベルが違いました。コロナ禍で乱れた自律神経が一気にバッチリと整ったような感覚で、この施設に通う人の中には、ガンを患っていたが継続して通ううちにガンが消えたという人もいるほどです」しかし、技術的な知識が必要で、煤だらけになって1週間程度体に染み付く「人間スモーク状態」になってしまうため、万人に勧められない課題もありました。サウナで地元とも交流できる。問題は後継者不足。佐古田さんのサウナへの旅はまだまだ続きます。より一般的なサウナ体験を求めて、佐古田さんは2025年2月に瀬戸内エリアを訪問しました。そこで出会ったのが、失われゆく日本の伝統的な蒸し風呂文化でした。香川県さぬき市の「塚原から風呂」は、奈良時代に行基というお坊さんが「ここで温浴施設を行った方がいい」というひらめきを得て始まったとされる1200年の歴史を持ちます。石を積み上げて作った石室で、半日かけて薪を激しく燃やして石に熱を蓄積させ、一日中その熱を保持するシステムです。サウナとして入るのですが、毛布を被らないと火傷の危険があり、後ろ向きに入る必要があるほどだとか!「燃やした後の炭を囲炉裏で再利用し、地元の人々と旅行者が一堂に会するくつろぎスペースとして機能していました。初めて会った人同士でも親戚の家に行ったような温かい歓迎を受け、昔から知っていたかのような関係性が自然に生まれるんです」山口県の東大寺別院である阿弥陀寺の石室では、さらに印象深い体験が待っていました。「石菖」という日本古来の薬草を使用し、神経痛、疲労回復、胃腸を温める効果があるとされます。普通のサウナの暑い寒いのギャップとは違う、中から自然と温まっていく効果を実感できました。「温めた後の炭を再利用するくつろぎスペースでは、地元の人々が地元食材を持ち寄ってより積極的に交流していました。奥の方ではイノシシや鹿などのジビエを『そのまま出して食べなさい』と勧められ、東京や鎌倉では味わえない見知らぬ人からのご馳走体験に大きな感動を覚えました」しかし、これらの伝統的な蒸し風呂は深刻な後継者不足に直面しています。阿弥陀寺の石室は第一日曜日のみの開催で、保存会の高齢者2名が運営。「石風呂を守ることが生きがいだ」と語る保存会メンバーは強い誇りを持っていますが、昭和56年に石室を作り直した技術や心意気を継承する若い人材がいない状況にあります。限界集落で生まれた解決策がヒントに!では、こうした伝統文化を現代にどう活かせば良いのでしょう?その答えの一つが、岡山県美作市の中右手地区という限界集落で生まれました。冬季は豪雪地帯となり高齢者が困っていたこの地域に、東京で働いていた一級建築士の丸山さんが地域協力隊として入りました。限界集落にあった母屋の離れの味噌醤油蔵を「エストニアのサウナに似ている」という閃きからサウナに改装したのです。ここで使用される「蓄熱式サウナ」は、耐熱レンガを組み上げて薪を入れ、4〜5時間温めることで丸一日サウナとして機能する効率的な燃焼システムです。従来の石風呂のように建物全体を温める必要がなく、ストーブのみを温めてその熱で建物を温めるため、燃焼効率が大幅に向上しています。「素人でも頑張れば制作可能な現実的なサウナ運営が可能になりました。裏山の楮や三つ又など和紙の原料となる植物、湧き水をろ過した地下水を水風呂として活用するなど、地域資源を最大限に活用しています」運営システムも独特です。薪の管理は限界集落の引退した高齢者が担当し、読書など自分のやりたいことをしながら薪管理の対価を得る仕組み。予約制限定で、春夏秋のみの営業。冬季は地元住民優先で、月の半分程度を営業日として設定し、空いた部分を外部からの宿泊客に解放しています。サウナを実際に作ってみると…?佐古田さんは丸山さんの紹介で、京都美山でEarthingMIYAMAさん主催の蓄熱式サウナ組み立てワークショップに参加しました。日本全国から参加者が集まり、長野県でサウナ事業を行う経営者らの話を聞きながら、数時間協力して耐熱レンガを組み立てて蓄熱式サウナを作るプロセスを実体験しました。「耐熱レンガを互い違いに組み立てる作業が数時間で完成し、これが体験として提供できることに大きな満足感を得ました。古民家蔵を改造した設備では、屋根裏部屋がほんのり暖かい大人の秘密基地のような空間になり、単なるサウナを超えた体験価値を提供しています」サウナストーブの石を並べた部分を改造すればスモーク装置としても活用でき、簡単な料理も可能。制作後にテントを立てて突発的なタウンミーティングが開催されたりもしたそうで、真の交流が生まれる場として機能することを実感しました。鎌倉で「サウナ・ツーリズム」を実現したい!こうした体験を踏まえて、佐古田さんは鎌倉でもサウナを通じて地元民と旅行客の交流を実現したい!と構想しています。佐古田さんがこれほどサウナの体験を実現したい背景には現代社会への危機感があります。「IT化でリモートワークが可能になり一見便利に見えますが、GoogleやFacebookなどのAIアルゴリズムによって、『見たいものしか見えなくなって、視野が狭くなっている』現状に生き物として怖さを感じています。このような状況を『吹っ飛ばす装置』としてサウナを広げていきたい」そんな想いが、佐古田さんのサウナツーリズムを突き動かしていたのです!そしてここからは様々な意見交換が始まりました。このリジェネラティブ・ツーリズム作戦会議を主催する菅さんは、サウナについての鎌倉の文化的な可能性を説明してくれました。「鎌倉は様々な文化の中心として源流となってきた要素が非常に多く、サウナも仏教と結びつけることで大きな可能性があるかもしれないですよね。確かに温室という概念があり、伽藍の中に温室があって蒸し風呂を行っていた歴史的事実がありますし。」日本人が空気のように取り扱っている文化も、場所や視点を変えることで海外の人々が「ぜひ体験したい!」と感じるコンテンツになり、その収益を文化を守る原資として活用するのがリジェネラティブツーリズム、再生型の観光の考え方です。小町通りなど旧市街に集中している観光客を大町や材木座方面に分散させ、体験型コンテンツとして北鎌倉や腰越地域に展開することで、旧市街からの分散を促進し滞在時間を延長させる。これによりオーバーツーリズムの課題解決の一助となることも期待しています。バスに乗ったら、そこはサウナ?そんな多様な議論の中で注目を集めたのが、移動式サウナバス、通称「サバス」のアイデアでした。これは使われなくなったバス車両を改装してサウナ設備を搭載し、様々な場所で移動式のサウナ体験を提供するというものです。固定施設と異なり、場所を選ばずに展開できる柔軟性が最大の特徴です。サバスHPより引用菅さんはこのアイデアのよさを説明してくれました。「鎌倉ではこれまで、鎌倉というブランド力に注目して、外資や大都市の事業者が高い家賃を払って利益は出なくても広告費として意義があると考え、家賃の値上がりを産み続けてきました。その結果、短期的にPRしたいもの、売りたいものが押し出されて、地域のニーズとずれていく歪みが起きていました。」しかし移動式サウナバスなら、京急さんや江ノ電さんなどの地元企業と連携できるかもしれません。移動式という特性を活かして駅周辺や沿線の様々な場所で展開でき、鉄道事業者の持つ交通インフラと組み合わせることで、地域と一体となった持続可能な観光事業が実現できそうです。消費単価向上の効果も期待できます。「北鎌倉での空手体験、腰越でのサウナバス、漁師料理などとの組み合わせにより一日滞在型の観光を実現し、宿泊まで含めることで消費単価を現在の3千円台から7万円程度まで大幅に向上させることができます。サウナバスが5千円〜1万円程度であれば、食べ歩きや宿泊と合わせて鎌倉により多くのお金を落とす仕組みが構築でき、これを原資とした街づくりが可能になります」みんなで描く未来像:浴場跡を復活できないか?参加者からもいろんな提案が相次ぎました。「鎌倉時代の浴場跡を復活させて現在の商業として提供することができれば本格的で強力なコンテンツになるのではないか」「神仏の前に行く時に身体をきれいにするという日本の穢れや清めの概念と結びつけ、昔の時代の蒸し風呂を蘇らせたアピールとして外国人にも興味深いコンテンツとして提供できるかも」中国人参加者からは、「中国ではサウナはまだ流行していないですが、日本に来る中国人観光客は日本の文化体験に強い関心を持っています。現在は温泉が主流ですが、それをサウナに変更し、寿司などの日本文化と組み合わせることで新しい体験パッケージが提供できます」という提案もありました。作戦会議を経て:サウナでの地域再生を広げる仲間募集!佐古田さん自身も、今回の議論を通じて重要な気づきを得たようです。「鎌倉でサウナをやりたい根幹の想いは、物理的に温まることでフラットな人間関係で会話ができる環境を作ることです。今回の議論を通じて、サウナバスというフレキシブルなものから始める方向性はとてもしっくりきました」ということで!最初は鎌倉でのサバス実現に向けて動いていきたいとのこと!サウナを起点とした地域再生に取り組みたい方がいれば、ぜひお伝えください!温まることで生まれる人と人とのつながりが、やがて地域全体を温め、再生していく――。そんな未来への第一歩が、鎌倉から始まろうとしています!次回は10月17日(金)の19時から!ツーリストシップをテーマに開かれます!ぜひお越しください〜!